少し前のことになりますが、イスラエル大使館経済部とイスラエル輸出協会主催の「イスラエル料理セミナー」へ行ってきました。会場は東京・白銀台「八芳園」。普段はなじみのない食材や料理を食べられるとあって、ワクワクしながらの参加となりました。
セミナーは3部構成になっており、まずはイスラエルの食文化についてのレクチャーの時間です。
レクチャーの内容をざっとまとめると……
ヨーロッパ、アメリカ、中東、北アフリカ、インドなど、世界70か国以上に散り散りになって暮らしていたユダヤ人が集まり居を構えたイスラエルの料理は、アラブ料理に各国の食文化が混ざり合ったフュージョン料理です。地中海の恵まれた風土と優れた農業技術をもち、市場に出回る野菜の98%が国産。上質のオリーブオイルの産地でもあります。
何よりも大切なのは家族との食事。だから食卓に出来合いの料理が上ることはありませんし、そもそも冷凍食品やチルド品は、お店でもほとんど見かけません。ただし外食は大好き。イスラエルの都市、テルアビブの中心地はおしゃれなレストランやカフェで賑わっています。寿司店も多く、一人あたりの寿司店の数が世界2位の都市ともいわれています。
……と、さまざまな民族や宗教、文化が融合する国の成り立ちから、イスラエル料理は非常にバラエティ豊かで、さらにフレッシュな野菜や果物をふんだんに使ったヘルシーな料理のようです。
次のプログラムは、シェフとして、またフードライターとしても活躍するルティ・ルソーさんの調理実演。シェフというよりはまるで雑誌のモデルのようなスタイル抜群の美女です。持参した調理器具が故障するというハプニングに見舞われながらも、時折ジョークを交えつつ、終始笑顔で「アラブアライェス(肉詰めのピタパン)」の調理を披露してくれました。
半円形のポケットに具を挟んで食べるピタパンは日本でもすでによく知られていますが、私は、フィリングを生のまま詰めて焼くのを見たのは今回が初めて。牛挽肉とラム挽肉に、パセリや玉ねぎのみじん切り、そしてクミン、シナモン、ナツメグといったスパイスを入れてしっかりこね、ピタパンのポケットにぎゅっと詰め込んでグリルパンで焼いていきます。
ソースはごまペーストと水、レモン汁、塩をよく混ぜ合わせただけのシンプルさ。ごまペーストはイスラエルでは「タヒニ」といって、とてもポピュラーな食材です。原料が白ごまのみ、というところは日本の練りごまと同じですが、ごまを炒らず、芯の部分のみを使うため、クセのない風味が特徴。ソースやドレッシングに使ったり、はちみつやデーツ(ナツメ)ペーストに混ぜてパンに塗ったりと、食事にタヒニを使わない日はないのだとか。日本の味噌のような存在なのかもしれません。
実演が終わると、お待ちかねのランチタイム! 実演したアラブアライェスをはじめ10種類以上のイスラエル料理がビュッフェ形式で供されました。会場にはイスラエル食品会社の展示もずらり。はちみつやデーツ、タヒニ、スパイスやハーブなど、こちらも味見してみたいものでいっぱいです。
ひとまず食品会社の展示をいくつか視察。どのメーカーもオーガニックや無添加をうたっており、農業大国へと躍進するイスラエルの食の安全や品質の高さへのこだわりがうかがえます。アメリカの国際食品コンクール「SOFI Award」で金賞を受賞したはちみつもあるなど、その実力も確かです。
中でも私が「これは!」と感動したのは「Zahavi Hakerem」の「スクッグ」です。クスクスに添えられる北アフリカの調味料、ハリッサによく似た辛いペーストで、フレッシュな唐辛子の辛さの中にさまざまなスパイスの鮮烈な香り。特に気に入ったのはレモンが入ったスクッグで、さわやかな酸味がたまりません。「白身魚の刺身にちょっと載せて食べたい!」「アボカドを和えたら絶対おいしい!」「揚げ物にも合う!」と妄想しつつ、2度3度と試食してしまいました。
ビュッフェでは大好物の「フマス(ひよこ豆のペースト」や実演のピタパンの肉詰めなどを堪能。生のはまちやサーモンもさっぱりと調理されていて、生魚を抵抗なく食べる国民ということがわかりました。ちなみにイスラエルでは、まぐろもよく食べられているそうです。
ドリンクには赤ワインも。コクがあるけれど重すぎず、後味のいい辛口。イスラエル料理はスパイシーな印象ですが、スパイスやハーブの使い方が洗練されているので、ワインにも合わせやすいのかもしれません。
豊富な食材に、ヨーロッパをはじめとするさまざまな国々のエッセンスをうまく取り込んだスパイス使い。手作りの食事を大切にし、豆や果物、野菜をたっぷりと使うバランスのとれた食習慣。今回のセミナーでは、これからやってくる食のトレンドをのぞいたような気がしました。もしかしたら、イスラエル料理が日本に広まる日も近いかもしれませんよ。